2023年12月22日、「令和6年度税制改正大綱」が閣議決定されました。
物価高に賃金上昇が追いついていない現状から、持続的な賃上げがおこなわれる経済の実現を目指す政策が盛り込まれています。
今回は私たちの生活に密に関わる政策を中心に、2024年の税制改正のポイントを解説します。
2024年の税金はどう変わる?税制改正の概要
税金には、個人や法人など対象によって、さまざまな制度があります。
今回は個人の所得に関する税制改正をピックアップし、解説していきます。解説するのは次の5つです。
所得税・個人住民税の定額減税
住宅ローン控除の拡充
既存住宅などのリフォームにかかる特例
生命保険料控除制度の拡充
扶養控除の見直し
それぞれ詳しい内容を見ていきましょう。
所得税・個人住民税の定額減税
ニュースや新聞などで「定額減税」を見聞きした方も多いと思います。改めて概要を押さえておきましょう。
現在、賃金の上昇が物価高に追いついておらず、私たちの経済的な負担は大きくなっています。
そこで、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げがおこなわれる経済の実現を目指し、実施されるのが所得税・個人住民税の定額減税です。
定額減税の内容
令和6年分の所得税から、所得税額が一定額控除されます。
〈本人〉所得税:3万円 住民税:1万円
〈同一生計配偶者または扶養親族〉1人につき3万円 住民税:1万円
ただし、本人の合計所得金額が1,805万円以下である場合に限られます。
なお、同一生計配偶者とは、納税者と生計を一にしている配偶者で、前年の合計所得金額が48万円以下である人のことです。
例えば、共働きで年収がそれぞれ400万円あり、夫が子ども一人扶養している場合は次のようになります。
〈夫〉
夫本人 所得税:3万円 住民税:1万円
扶養している子どもの分の所得税:3万円 住民税:1万円
〈妻〉
妻本人 所得税:3万円 住民税:1万円
世帯で合計12万円が控除されることになります。
妻は年収が400万円あるため、同一生計配偶者にはあたらず、妻本人の所得から控除されます。
定額減税がおこなわれる理由
先述したように、2024年6月から実施される定額減税は、家計への負担を軽減するためにおこなわれます。
物価上昇やエネルギー価格の高騰により、家計への負担が増加しています。所得に関わらず、一律に税負担を軽減することで、負担を軽減することを目的としています。
また、物価上昇は、低所得者層において特に深刻な影響を与えています。
これまで3万円を目安にされていた低所得者世帯への支援を追加し、住民税非課税世帯1世帯あたり合計10万円の支援がおこなわれます。
定額減税の対象期間
今回おこなわれる定額減税は令和6年分の所得を対象にしており、令和7年以降どうなるかは決まっていません。
令和6年分の定額減税は令和6年6月1日以後に支払われる給与の源泉徴収税額から、定額減税額が控除されます。
控除しきれなかった場合は、翌月以後の源泉徴収税額から控除されます。
住宅ローン控除の拡充
住宅価格が急激に上昇している今、子育て世帯への支援を強化することを目的として、子育て世帯などへの住宅ローン控除の優遇が決定されました。
子育て・若者夫婦世帯が優遇される
先述したように、子育て世帯への支援が強化されます。詳しく見ていきましょう。
住宅ローン控除を受けるためには、さまざまな要件を満たす必要があります。要件を満たすと、年末の住宅ローン残高に0.7%をかけた額を控除できます。
例えば、住宅ローン残高が1,500万円だった場合、0.7%をかけた10万5,000円が所得税から控除されます。
しかし、住宅ローンの借入限度額は決められており、2024年からは下げられる予定でした。
ところが今回の改正を受けて、子育て・若者夫婦世帯が入居する場合は、次のようになります。
2022年〜2023年 | 2024年 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 | 4,500万円 ※子育て・若者夫婦世帯は5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 3,500万円 ※子育て・若者夫婦世帯は4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 3,500万円 ※子育て・若者夫婦世帯は4,000万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 0円 ※2023年までに新築の建築確認をしていた場合は2,000万円 |
参考:国土交通省「住宅ローン減税の借入限度額及び床面積要件の維持(所得税・個人住民税)」
なお、子育て・若者夫婦世帯とは次の世帯を指します。
・19歳未満の子を有する世帯
・夫婦のいずれかが40歳未満の世帯
また、令和7年度も同様の方向性で検討されています。住宅の購入を考えている子育て世帯は、狙い目と言えるでしょう。
床面積要件の緩和措置が延長される
先述したように、住宅ローン控除を受けるためには要件があり、その一つに住宅の床面積があります。
床面積の要件は通常、50平方メートルでしたが、40平方メートルまで緩和されており、2023年12月末で終了する予定でした。
しかし、今回の改正で、1年延長され、2024年の12月末まで建築確認が取れた新築住宅が受けられることとなりました。
ただし、合計所得金額が1,000万円以下の年に限られる点に注意しましょう。
既存住宅などのリフォームにかかる特例
2023年の出生数は72万6,000人(推計)(※)と、少子化がますます加速しています。
子育てに対する不安や負担が大きいことが要因の一つであるため、住宅のハード面の性能を向上させることで、負担軽減を図ろうとしています。
その一つとして、子育てに対応した住宅へのリフォームの支援が盛り込まれました。
※株式会社日本総合研究所「少子化研究シリーズNo.10」
既存住宅のリフォームに係る特例措置の拡充と延長
具体的には、子育て世帯が子育てに適した住宅へのリフォームをおこなう場合、標準的な工事費用相当額の10%が所得税から控除されます。
工事の内容としては次のようなものです。
・住宅内の事故を防止するための工事(手すり設置など)
・対面式キッチンへの交換工事
・開口部の防犯性を高める工事
・収納設備を増設する工事
・開口部・界壁・床の防音性を高める工事
・間取り変更工事
実際にリフォームにかかった費用ではなく、国土交通省が定めた標準的な工事費用相当額から控除される点に気をつけましょう。
なお、対象工事限度額は250万円、最大控除額は25万円です。
従来のリフォームにかかる特例措置が延長される
2023年12月末で終了予定だったリフォームにかかる特例措置が、2025年の12月31日まで延長されます。
これは、既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・三世代同居・長期優良住宅を図るためのリフォームをすると、要件を満たした場合に一定額が所得税から控除されるというものです。
リフォームの工事内容はさまざまで要件も異なるため、詳細は一般社団法人住宅リフォーム推進協議会の「住宅リフォームの支援制度」をご確認ください。
生命保険料控除制度の拡充
次に紹介する「扶養控除等の見直し」と合わせて、子育てを支援するための税制として、令和7年度の税制改正で検討するものとして盛り込まれました。
遺族保障は、遺族の将来の生活費や子どもの教育費への備えとして重要です。
同時に、人生100年時代を迎え、資産形成だけでなく、医療や介護などにも備えなければなりません。
将来に向けた保障や資産形成への備えを継続するために、生命保険料控除の拡充が提案されました。
現在の制度では、一般、介護、個人年金で所得税がそれぞれ4万円、住民税が2.8万円控除されます。表にすると次のようになります。※2012年1月以降の契約
一般生命保険料控除 | 介護医療保険料控除 | 個人年金保険料控除 | 合計 | |
所得税 | 4万円 | 4万円 | 4万円 | 12万円 |
住民税 | 2.8万円 | 2.8万円 | 2.8万円 | 7万円 |
これを、子育て世帯の負担を軽減するため、23歳未満の扶養親族がいる場合、一般の生命保険料の控除額を6万円までにすることを要望しています。
一般生命保険料控除 | 介護医療保険料控除 | 個人年金保険料控除 | 合計 | |
所得税 | 6万円 | 4万円 | 4万円 | 12万円 |
住民税 | 2.8万円 | 2.8万円 | 2.8万円 | ? |
ただし、合計適用限度額である12万円は変わりません。なお、住民税についての記載はなく、どうなるかは未定です。
扶養控除の見直し
「異次元の少子化対策」の1つとして、2024年10月から児童手当の所得制限が撤廃され、支給期間が高校卒業までに延長されるなど、児童手当が拡充されます。
それを受け、高校生時代は教育費などの支出がかさむ時期であることから、15歳以下とのバランスを踏まえつつ、扶養控除が見直されることになりました。
また、ひとり親の子育てにかかる負担を踏まえ、所得税の控除額も見直されます。
具体的には以下のようになります。
16〜18歳における扶養控除
所得税 38万円 → 25万円
住民税 33万円 → 12万円
控除額は減りますが、税金の負担が、受け取れる児童手当の金額より少ないため、所得に関わらず、実質としては手取りが増えます。
具体的には、課税所得4,000万円を超える層でも、手取りは3万9,000円増えるよう設計されています。
ひとり親控除の対象と控除額が拡充される
ひとり親の自立支援を進めるため、ひとり親控除の所得要件が、500万円から1,000万円以下に引き上げられます。
また、ひとり親の税負担を軽減するため、所得税・住民税の控除額が、次のように引き上げられます。
所得税の控除額:35万円→38万円
住民税の控除額:30万円→33万円
繰り返しになりますが、「生命保険料控除の拡充」と「扶養控除の見直し」は令和7年度の税制改正で検討される予定のものです。
今後どうなるかはわかりませんが、特に子育て世帯の方は注目しておきましょう。
まとめ
今回は令和6年度の税制改正で、私たちの生活に身近なものを取り上げて解説しました。
取り上げたもの以外にも、改正されたものはいろいろあります。
日頃からアンテナを張り、本当に私たちのための制度になっているかどうかを知ることが大切です。
また、選挙は私たちの声を確実に届けることができる機会です。しっかり権利を行使し、注視しておきましょう。
↓↓↓弊社推奨の「低コストiDeCo加入窓口」はこちら↓↓↓