少子高齢化の加速を背景に、日本では就労人口を少しでも増やすべく、かねてより雇用保険制度の見直しが行われてきました。
中でも、高年齢者雇用安定法による高齢者就労支援に関する制度は、ここ10年でも大きく見直されています。
本記事では、そんな高齢者就労支援につながる雇用保険制度のひとつである「高年齢雇用継続給付」について解説していきます。
高年齢雇用継続給付とは
高年齢雇用継続給付とは、60歳から65歳までの賃金の低下を補う制度です。
これは、2021年4月の高年齢者雇用安定法の改正により、企業が65歳までの雇用確保を義務付けられたことが背景にあります。
高年齢雇用継続給付には、 ①「高年齢雇用継続基本給付金」と②「高年齢再就職給付金」の2種類があり、それぞれ受給資格や期間が異なります。
①高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金の支給要件は以下の通りです。
〈支給要件〉
- 失業保険による基本手当を受給せずに60歳以後も会社に勤めていること
- 雇用保険の被保険者期間が通算して5年以上あること
- 原則として60歳到達時の賃金に比べて75%未満の賃金で働いていること
〈支給期間〉
- 60歳に達した月から65歳に達する月まで
※参考元:厚生労働省ホームページ「Q&A~高年齢雇用継続給付」
支給額は60歳到達時の賃金の低下率によって決まりますが、計算方法もこの後詳しく解説します。
②高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金については以下の通りです。
〈支給要件〉
- 失業保険による基本手当を受給し、60歳以後に再就職していること
- 雇用保険の被保険者期間が通算して5年以上あること
- 基本手当の支給日数を100日以上残していること
- 一年以上続いて雇用されることが確実である安定した職業に就いていること
- 同一の就職について、再就職手当の支給を受けていないこと
〈支給期間〉
- 基本手当の支給残日数が200日以上の場合…再就職日の翌日から2年を経過する日の属する月まで
- 基本手当の支給残日数が100日以上200日未満の場合…再就職日の翌日から1年を経過する日の属する月まで
※参考元:厚生労働省ホームページ「Q&A~高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続基本給付金との大きな違いは、基本手当を受給しているかどうかという点です。
また、基本手当受給残日数に応じて支給期間も異なりますが、いずれも被保険者が65歳に達する月までの受給となります。
給付額の計算方法
それでは、高年齢雇用継続給付金の具体的な支給額を算出するにはどのようにしたらよいかを見ていきましょう。
まず、高年齢雇用継続給付金の最高支給率は15%で、60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は全て対象となります。
また、61%以上75%未満までは、下図のように支給率が定められています。
※厚生労働省ホームページ「Q&A~高年齢雇用継続給付」を参考に、筆者にて表作成
この早見表をもとに以下の計算式に当てはめると、具体額を算出することができます。
~高年齢雇用継続給付金計算方法~
60歳以後の賃金月額 × 60歳到達時から60歳以後の賃金低下率に応じた支給率
まず、60歳到達時の賃金月額の計算方法は以下の通りです。
~60歳到達時の賃金月額計算方法~
(60歳に到達する前6か月間の総支給額 ÷ 180日) × 30日
単純に60歳到達時の賃金月額ではなく、半年分の平均賃金が正解ですので、注意しましょう。
60歳到達時の賃金月額が計算できたら、それをもとに60歳以後の賃金低下率を個々のケースに応じて別途割り出す必要がありますが、わかりやすい例を挙げると次のようになります。
【例①】60歳以後の賃金月額が半分になった場合
◆60歳到達時の賃金月額…300,000円
◇60歳以後の賃金月額…150,000円
このときの低下率は半分、つまり50%になりますので、61%以下ということで支給率は最高の15%となります。
【支給額】
150,000円 × 0.15 = 22,500円
したがってこの場合は、月に172,500円を受け取ることができるということです。
【例②】60歳以後の賃金月額が61%以上75%未満の場合
◆60歳到達時の賃金月額…350,000円
◇60歳以後の賃金月額…252,000円
このときの低下率は、252,000円 ÷ 350,000円 =0.72 で72%となります。
早見表で低下率72%の欄を確認すると、支給率は2.72%です。
【支給額】
252,000円 × 0.0272 = 6,800円
この場合は月に258,800円を受け取ることができますが、例①と比べると支給額自体は少ないことがわかります。
このように、低下率によって支給額には大きく差が出てきますので、まずは自分がどれぐらいもらえるかを実際に計算してみましょう。
給付金受給の際の注意点
基本手当よりも給付金のほうが少ない場合もある
実際に計算してみるとわかる通り、賃金の低下率によっては支給額が少額になることもあり、場合によっては高年齢雇用継続給付金を受け取らずに基本手当を受け取ったほうがトータルで多くもらえる場合もあります。
高年齢雇用継続給付の申請は基本的には会社側が行うことになっていますので、会社のほうで計算をしてくれることが多いのですが、会社によってはもしかしたらきちんと明示してもらえない場合もあるかもしれません。
より確実に、きちんとした給付を受け取ることができるよう、自分でも賃金の低下率と支給率を確認しておき、比較検討したほうが良いでしょう。
2025年以降に支給率の改正あり
もうひとつ覚えておきたいのが、支給率の改正についてです。
冒頭でも雇用保険制度が見直され続けていることについては触れましたが、実はもう既に2025年の4月に新たに改正されることが決まっています。
高年齢雇用継続給付金の最高支給率は現在15%ですが、2025年4月からは雇用保険制度改正により、10%に変更されるのです。
改正の背景には、高年齢者雇用安定法により段々と定年の延長および廃止といった継続雇用努力が行われ、高齢者でも長く働くことが浸透してきたことがあり、将来的にはさらに縮減されていくことも予想されます。
実際に、現在の最高支給率15%という規定も2003年に改正されたもので、2003年の改正以前はなんと25%と、もっと高かったのです。(支給上限である75%未満という規定も、2003年改正以前は85%未満でした。)
とはいえ、まだまだ給付自体がなくなることはありませんので、ぜひ今こそ積極的に活用していきたい制度には違いありません。
まとめ
- 高年齢雇用継続給付は、60歳から65歳までの賃金の低下を補う制度
- 高年齢雇用継続基本給付金と失業保険による基本手当の併給は不可!
- 60歳以後の賃金の低下が低い場合には、基本手当を受給したほうがお得な場合もある
- 2025年4月以降は支給率の改正あり。今こそ活用どき!
60歳以降も働き続けなければいけないということは大変なようですが、今は平均寿命も延び、60代はまだまだ若く「高齢者」と言うには違和感を覚えるほどに変わってきています。
実際に、元気なうちは働き続けたいと思う人の割合も増えているようです。
高年齢雇用継続給付は、そのような長く働きたい人たちを後押しする支援のひとつです。
改正で今後縮減傾向ではありますが、そんな今だからこそ積極的に活用し、少しでも多く手元に残せたら良いですね。
一方で、現在まだ若手である人たちにとっては、こういった制度が縮減されていくということを考慮し、今から備えることが必要になってきます。
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