「相続税対策で毎年110万円ずつ贈与しているけど、大丈夫?」
この記事は、そんな疑問・ニーズにお答えする内容です。
令和4年、被相続人(死亡者)1,569,050人に対し、相続税の課税対象となった被相続人は9.6%にあたる150,858人でした。つまり、約10人に1人の割合で相続税が発生しています。この割合は、相続税の基礎控除が引き下げられた平成27年以降で最も高い割合です。
さらに、課税された税額は1人あたり1,855万円と決して低くない金額となっています。今後も進行する高齢化社会では、相続税が課税される人はますます増加するでしょう。
この記事では相続税対策である生前贈与をざっくりと解説し、2024年から変わったルールも解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
・生前贈与とは
・暦年課税制度には「持ち戻しルール」がある
・「持ち戻しルール」が適用される人とは
・110万円を超える贈与は損?
・110万円を超える贈与には「相続時精算課税制度」
・「相続時精算課税制度」で110万円の贈与が非課税に
生前贈与による贈与税の計算方法は2つ
生きている間に誰かへ財産を無償で提供する行為を「生前贈与」と言い、受け取った人には一定の条件のもとで「贈与税」が課せられます。
贈与税の計算方法は以下の2種類です。
- 暦年課税制度
- 相続時精算課税制度
まずは、暦年課税制度について見ていきましょう。
暦年課税制度とは、年間110万円までは非課税で、年間110万円を超える部分に税率をかけるという計算方法です。
年間とは、1月1日から12月31日までの期間です。この期間に110万円を超える贈与を受けた場合は、財産をもらった人が贈与税の申告と納税を行います。
非課税の考え方は、もらった人ごとではなく、もらった金額で考えます。つまり、父親母親それぞれから110万円ずつもらった場合、もらった金額の合計は220万円となり非課税である110万円を超えた110万円が課税対象となります。
贈与を受けられる人は、子供だけではありません。配偶者はもちろん、孫や子供の配偶者、友達、誰にでも贈与して大丈夫です。
暦年課税制度には「持ち戻しルール」がある
贈与をしてから3年以内に相続が発生した場合、その贈与は無かったものとして、相続税の課税対象となります。
「3年ルール」と言われるこのルールは、2024年1月1日から行われる贈与に対しては7年以内と段階的に延長されます。
具体例で考えてみましょう。
2024年1月1日に贈与をした人が、2027年10月1日に死亡し相続が発生したと仮定しましょう。
従来の「3年ルール」であれば、2024年10月1日以降に行われた贈与が相続税加算の対象となります。
しかし、2024年1月1日以降の贈与も対象となるため、持ち戻し期間は3年9か月となるのです。
つまり、2031年1月1日以降に死亡した場合、最大である7年間の贈与が持ち戻し対象となります。
また、この「持ち戻しルール」では、3年前よりも前に贈与をした場合、100万までは持ち戻さなくてよいとされています。
死亡から3年間で330万円、死亡から4~7年の4年間で440万円の合計770万円を贈与していた場合、持ち戻しされるのは330万円+(440万円-100万円)の670万円となります。
最大4年間で100万円の非課税枠なので、相続税対策の手段としてはあまり有効ではないと認識しておきましょう。
「持ち戻しルール」が適用される人とは
「持ち戻しルール」は、一定の期間の贈与が相続税の加算対象となると紹介してきましたが、このルールには適用される人と、されない人がいます。
「持ち戻しルール」が適用される人は、相続人(相続を受ける側の人)です。
娘と孫に110万円ずつ贈与をして死亡した場合、「持ち戻しルール」適用となるのは娘のみとなります。孫への贈与は適用外なるため、孫への生前贈与は有効な相続税対策と言われています。
孫以外にも、子供の配偶者である嫁と婿も「持ち戻しルール」適用外となります。しかし、子供が離婚した場合、贈与したその財産は戻ってはきません。そのため、子供の配偶者にまで贈与するケースは少ないと言われています。
適用される人は正確には、「相続または遺贈により財産を取得した者」と定義されています。
つまり、孫や子供の配偶者であっても遺言や生命保険によって財産を受け取った場合は「持ち戻しルール」適用となります。
110万円を超える贈与は損?
贈与税を納付している場合であっても、相続税の加算対象となります。
しかし、贈与税も支払い、さらに相続税も支払うのでは、二重課税になってしまいます。そのため、算出した相続税から納付した贈与税を控除することができます。
二重課税を回避することができるので、「贈与税を支払ってまで贈与することは損」とは言えません。
では、110万円を超える贈与を非課税にする方法はないのでしょうか。それを可能にするのが、「相続時精算課税制度」という計算方法です。
「相続時精算課税制度」について、特徴を見ていきましょう。
110万円を超える贈与には「相続時精算課税制度」
「相続時精算課税制度」とは、最大2,500万円までの贈与を非課税にするが、贈与した人が死亡し相続が発生した場合は、過去に贈与した全財産を持ち戻し相続税を計算する方法です。
「相続時精算課税制度」の選択には条件があります。贈与をする人は60歳以上の父母または祖父母、贈与を受ける人は18歳以上の子または孫となります。
具体例を見てみましょう。
資産3,500万円を所有している人が、「相続時精算課税制度」を選択して娘に1,000万円贈与したとします。その際、贈与した1,000万円は非課税です。贈与後の残り財産は2,500万円をなります。
この時点で相続が発生した場合、1,000万円を持ち戻しても、相続税の基礎控除内に収まり、相続税は発生しません。
このように、「相続時精算課税制度」は相続税がかからない人が110万円を超える資産を一度に贈与したい場合に有効とされています。
他の例も見てみましょう。
資産5,000万円を所有しており、「相続時精算課税制度」を選択して2,500万円を息子に贈与したとします。贈与した人の財産は残り2,500万円となります。
この時点で相続が発生した場合、相続税の基礎控除内におさまると思いきや、贈与した2,500万円全てを持ち戻して、5,000万円をもとに相続税を計算することになります。
この場合は「相続時精算課税制度」が有効な手段とは考えにくいです。
何十年前の贈与であっても、「相続時精算課税制度」を選択して贈与したものは全て持ち戻すことになります。
「相続時精算課税制度」は税金の支払いを先送りにしているだけに過ぎません。
「相続時精算課税制度」を選択するにあたって、他にも注意点があります。
・贈与した財産は全て持ち戻される
・一度選択すると、取り消しは不可能
・少額の贈与でも申告が必須
「相続時精算課税制度」は一度選択すると、二度と取り消すことはできません。
この選択の考え方は、贈与者ごとで考えます。母から長女へ「相続時精算課税制度」を選択して贈与しても、次女への贈与は暦年課税制度で贈与が可能です。
また、「相続時精算課税制度」を選択すると、少額の贈与を受けた場合であっても、選択した翌年以降も贈与税の申告が必要となります。
「2,500万円の枠を使い切っていないから申告は必要ない」ではなく、たとえ1万円の贈与であっても申告が必要です。
ここまで解説すると、「相続時精算課税制度」は相続税対策にはあまり有効ではない贈与方法であると感じます。前述したように相続税が発生しない人にとっては有効です。
しかし、2024年1月から「相続時精算課税制度」に変更があり、相続税対策として活用できるようになりました。その変更点を見ていきましょう。
「相続時精算課税制度」で110万円の贈与が非課税に
2024年1月1日以降、「相続時精算課税制度」を選択すると、年間110万円の非課税枠が新設されました。
この枠は、年間110万円まで贈与は非課税となるので、申告義務はありません。(110万円を超える贈与を受けた場合は申告が必要です)
さらに、この枠内での贈与は、相続発生時に持ち戻しされません。
例えば、親が子供へ110万円を贈与した翌日に死亡したとします。暦年課税制度であれば「3年(7年)ルール」の適用となり、贈与した110万円は相続税加算対象となります。
しかし、「相続時精算課税制度」を選択して贈与すれば、110万円は持ち戻す必要がなく、110万を非課税で子供へ贈与することが可能です。
終わりに
いかがでしたでしょうか?
暦年課税制度に適用される「持ち戻しルール」と「相続時精算課税制度」について解説してきました。
相続開始までの期間が7年以内の場合、「相続時精算課税制度」が有利になると言われています。相続開始までの期間が7年超の場合は、どちらが有利かは所有財産の総額や相続人の人数によって左右されます。
しかし、7年後も絶対に生きていると自信のある人は少ないのではないでしょうか?年間110万円を確実に非課税にできる「相続時精算課税制度」が賢明と言えるかもしれません。生前にできる相続税対策は様々あるので、今後の参考にしてみてください。
あしたばでは、将来的な相続対策などのお金にまつわるご相談を受けておりますので、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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