企業型確定拠出型年金(企業型DC)の拠出金は退職時にどうなるのか、積極的に運用している人ほど気になる疑問だと思います。
退職後の企業型DCの拠出金の扱いは、その後どのような進路を選ぶかによって異なるため、把握しきれない方も多いのではないでしょうか。 この記事では、退職後の進路ごとに、企業型DCの拠出金を退職時にどのような手続きをして、どこへ移管するのかを解説します。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、従業員が勤務先企業を通じて加入する年金制度です。掛金は企業側が拠出し、拠出金の運用を従業員が自ら行うことで、年金資産を形成します。
運用商品は、「価格変動型」と「元本確保型」の2種類があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。
● 価格変動型:成果によっては資産を大きく増やせる可能性がある。主に投資信託が投資対象 ● 元本確保型:元本を確保しながら運用できる。定期預金や保険などが主な投資対象
どの商品を選ぶかは、従業員が自由に決定できます。
個人型確定拠出年金(iDeCo)との違い
個人型確定拠出年金(iDeCo・イデコ)とは、個人が自ら金融機関と契約して資金を運用する個人年金制度です。
掛金と受取金の両方に手厚い税制優遇が用意されていることが特徴で、iDeCoで購入できる運用商品は、企業型DCと同じく「価格変動型」と「元本確保型」の2種類があります。
企業型DCとiDeCoの違いは、掛金の拠出元が企業か個人かという点です。
企業型DCは、企業が拠出した資金を個人が運用し、iDeCoは個人が自ら拠出した資金を運用します。
退職後の選択肢と企業型DC資産の取り扱い
企業型DCに加入していた従業員が退職した場合、それまでに積みあがった資産は、就業形態によって取り扱いが異なります。 ● 企業型DCがある企業に転職:転職先の企業型DCの資産として引継ぎまたはiDeCoへ振り替え ● 企業型DCがない企業に転職:iDeCoへ振り替えか脱退 ● 確定給付企業年金がある企業に転職:企業の規約によっては資産の移管が可能 ● 自営業・公務員・無職:iDeCoへの振り替えまたは脱退 ● 定年退職:60歳以上の場合受け取り可能
ここでは、上記5パターンについて解説します。
企業型DCがある企業に転職
企業型DCがある企業に転職した場合、前の企業で積み立てた企業型DCの資産を、すべて転職先企業の企業型DCへ移管するか、iDeCoの資産として振り替えるかの2択です。
以前は転職先企業の企業型DCへ移管する選択肢しかありませんでしたが、2022年10月から企業型DC規約にかかわらずiDeCoへの振り替えも可能となりました。
企業型DCがない企業に転職
転職先の企業に企業型DCがない場合は、iDeCoへの振り替えまたは脱退の2択になります。iDeCoを選択した場合、資産の運用方法は以下の2種類から選択できます。
● 加入者として自ら拠出 ● 運用指図者として運用
確定給付企業年金がある企業に転職
転職先に確定給付企業年金がある場合、企業の確定給付企業年金規約において、企業型DCからの拠出金の移管が可能と定められていれば、資産の移管が可能です。
これは、企業の規約によって可否が決まるので、確認するにはその企業の規約を確認する必要があります。
なお、確定給付企業年金とは関係なく、iDeCoへの移管は可能です。
自営業・無職・公務員
企業型DCは企業のみ運用できる制度であり、自営業や無職を選んだ場合は企業に属していないため加入できません。
そのため、退職後はiDeCoへの振り替えもしくは脱退の2択です。また、公務員も企業型DCが用意されていないため、同じ扱いであることを覚えておきましょう。
iDeCoは、国民年金の被保険者が加入できる制度であり、20歳以上65歳未満の人であれば、基本的に誰でも加入できます。
※自営業の場合は第1号被保険者、無職の場合は第1号または第3号被保険者、公務員の場合は第2号被保険者に区分されます。
iDeCoの月々の掛金限度額は被保険者区分や職種によって異なります。特に注意が必要なのは公務員で、会社員と同じ第2号被保険者区分であっても、掛金上限が異なるので注意しましょう。
被保険者区分 | 加入可能年齢 | その他加入資格 | 掛金限度額 |
第1号被保険者(自営業・無職・学生など) | 満20歳以上60歳未満 | 国民年金保険料を納付していること(農業者年金の被保険者、国民年金の保険料を免除・猶予されている方を除く) | 年額:816,000円 月額:68,000円 |
第2号被保険者(公務員) | 60歳未満 | 年額:144,000円 月額:12,000円 | |
第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養者) | 20歳以上60歳未満 | 年額:276,000円 月額:23,000円 |
なお、過去にiDeCoの老齢給付金をすでに受給したことがある場合と、老齢基礎年金を繰り上げ受給している場合はiDeCoには加入できないので注意しましょう。
定年退職
定年退職をした場合、年齢が60歳以上であれば企業型DCからのお金を受給できます。
ただ、企業型DCの受給開始年齢は75歳まで先送りにできるため、75歳未満であれば必ずしも今すぐ受給する必要はありません。
また、iDeCoは65歳まで積み立て可能なため、65歳未満であれば、iDeCoへの振り替えも可能です。
企業型DCの受給方法
企業型DCを受給する場合は、受給方法を以下の3種類から選択できます。
- 一時金: 退職時に一時金としてまとめて受け取る。金額に応じて税金がかかるが、退職金と同じく退職所得控除が適用される
- 年金: 毎月一定額を年金として受け取る。支給年数や分割回数は企業によって異なる。年金と同じ雑所得に区分される
- 一時金と年金の組み合わせ:受給額の一部を一時金として受け取り、残りを年金として受け取る
注意!退職翌日から6カ月経過すると掛金が自動移管される
ここで注意したいのが、企業型DCの拠出金を移管するには期限がある点です。
移管の期限は企業型DCの資格喪失後6カ月以内で、具体的には、退職の翌日から換算して6カ月以内です。
期間内に移管が行われなかった場合、拠出金は国民年金基金連合会へ自動で移管され、そこで管理されます。 これは、移管の意思がなくとも、手続きをしなければ自動移換されるため非常に注意していただきたい点です。
移管されたあとは、資産の運用は行われず、また、管理手数料が発生します。 さらに、移管中の期間は老齢給付金の受給要件に必要な通算加入者等期間として扱われません。
このように、国民年金基金連合会への自動移管にはさまざまなデメリットがあるため、必ず6カ月以内に移管や脱退などの対応を行いましょう。
退職前に資産の扱いを決めておこう
繰り返しになりますが、企業型DCの資産は退職後の進路によって選択肢が変わります。
企業型DCを継続できるのか、それともiDeCoに移管する必要があるのか、もしくは脱退を希望するのか、いずれにしても退職前に企業型DCの資産をどう運用していくのか決めておくことが大切です。
退職翌日から6カ月の移管可能な期間を過ぎてしまうと、さまざまなデメリットがある自動移管が行われてしまいます。
せっかく積み立ててきた大切なお金ですので、退職後も活用できるように早めの対応を心がけましょう。 企業型確定拠出年金(企業型DC)は、相談先が少なく、「どこに相談すれば良いのだろう」と悩む方もたくさんいます。
弊社では、企業型DCを含め、確定拠出年金の活用や移管などについてのご相談をお受けしています。 ぜひお気軽にご相談ください。