仕事中に事故に遭い、怪我をしたり、病気になってしまったことはありませんか?
そんなときに労災保険制度の知識があれば、経済的な負担を軽減することができるかもしれません。
本記事では労災保険制度の基本について、わかりやすく解説していきます。
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労災保険制度とは
労災保険制度は正式には「労働者災害補償保険制度」といい、その名の通り労働者の業務上の負傷、疾病、傷害、死亡などに対して保障給付を行う社会保険制度です。
- 「労働者」の定義・・・社員だけでなくアルバイトやパートなども含まれ、雇用形態や労働時間に関係なく、外国人も対象
- 「業務上」の定義・・・業務災害と通勤災害があり、業務中だけでなく通勤途中の事故や災害も含まれる
※ただし通勤経路から外れて寄り道をして事故に遭った場合は原則対象外!(日用品や夕食のための材料の買い物など、日常生活上やむを得ない事由のために寄り道をした場合は対象)
労災保険制度の保険料は業種によって異なりますが、全額事業主負担ですので労働者の負担はありません。
また、近年会社に属さない個人事業主(いわゆるフリーランス)も増えてきていますが、そのような単独で事業を行っている人や、一定の中小企業向けの特別加入制度もあります。
労災保険制度の給付の種類
それでは、具体的にどのような給付があるのかをひとつずつ見ていきましょう。
休業補償給付
業務災害または通勤災害による病気や怪我で仕事ができず、賃金を受け取れないときに支給されます。
支給されるタイミングは、会社を休み、賃金が支払われなくなった日の4日目からです。
◆給付額◆
給付基礎日額(平均賃金)の60%
+
休業特別支給金として給付基礎日額の20%
療養補償給付
業務災害または通勤災害による病気や怪我の治療を、労災指定病院で受けたときに支給されます。
◆給付額◆
治療費の全額が労災保険から支給され、労働者の負担はなし
傷病補償給付
休業補償給付または療養補償給付を受給してから1年6か月を経過しても、一定の障害(傷病等級1級~3級)が残ってしまったときに支給されます。
※いずれの傷病等級にも該当していないが、1年6か月を経過してもまだ働けないという場合には、引き続き休業補償給付が支給されます。
◆補償内容◆
傷病等級に応じて、傷病補償年金(傷病年金)、傷病特別支給金および傷病特別年金が支給される
傷病等級 | 給付額(年金) | 傷病特別支給金 (一時金) | 傷病特別年金(年金) |
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 114万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 107万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 100万円 | 算定基礎日額の245日分 |
※厚生労働省徳島労働局「傷病(補償)給付」のホームページを参考に、筆者にて表作成
算定基礎日額は
算定基礎年額(被災日以前1年間に受けたボーナス等の特別給与)÷365日
で求めることができます。
遺族補償給付
労働者が業務災害または通勤災害で死亡したときに支給されます。
◆補償内容◆
遺族の数に応じて、遺族補償年金(遺族年金)、遺族特別支給金および遺族特別年金が支給される
※労働者の死亡当時、労働者に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の中で、優先順位の高い者に支給される
※妻(または夫)以外の遺族については、労働者の死亡当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要
遺族数 | 遺族(補償)年金 | 遺族特別支給金(一時金) | 遺族特別年金 |
1人 | 給付基礎日額の153日分 (ただし、その遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) | 300万円 | 算定基礎日額の153日分 (ただし、その遺族が55歳以上の妻、または一定の障害状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分) |
2人 | 給付基礎日額の201日分 | 算定基礎日額の201日分 | |
3人 | 給付基礎日額の223日分 | 算定基礎日額の223日分 | |
4人以上 | 給付基礎日額の245日分 | 算定基礎日額の245日分 |
※厚生労働省徳島労働局「遺族(補償)給付」のホームページを参考に、筆者にて表作成
※算定基礎日額については、傷病補償給付における算出式をご確認ください。
障害補償給付
業務災害または通勤災害による怪我や、病気が治った(症状が固定した)後に一定の障害が残ったときに支給されます。
◆補償内容◆
障害等級に応じて、障害補償年金(障害年金)、障害補償一時金(障害一時金)が支給される
障害等級 | 給付額(年金) | 障害特別支給金(一時金) | 障害特別年金(年金) |
第1級 | 給付基礎日額の313日分 | 342万円 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 | 320万円 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 | 300万円 | 算定基礎日額の245日分 |
…(略) | ・・・(略) | ・・・(略) | ・・・(略) |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 | 159万円 | 算定基礎日額の131日分 |
第8級以降は年金ではなく、一時金での支給となります。
障害等級 | 給付額(一時金) | 障害特別支給金(一時金) | 障害特別年金(一時金) |
第8級 | 給付基礎日額の503日分 | 65万円 | 算定基礎日額の503日分 |
第9級 | 給付基礎日額の391日分 | 50万円 | 算定基礎日額の391日分 |
第10級 | 給付基礎日額の302日分 | 39万円 | 算定基礎日額の302日分 |
…(略) | ・・・(略) | ・・・(略) | ・・・(略) |
第14級 | 給付基礎日額の56日分 | 8万円 | 算定基礎日額の56日分 |
※厚生労働省徳島労働局「障害(補償)給付」のホームページを参考に、筆者にて表作成
※算定基礎日額については、傷病補償給付における算出式をご確認ください。
葬祭給付
業務災害または通勤災害で亡くなった人の葬祭を行うときに支給されます。
◆給付額◆
315,000円に、給付基礎日額の30日分を足した額
※上記金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、60日分が支給される
なお、副業などで複数の会社で働いている場合、給付金算出のもととなる基礎日額はすべての勤務先の賃金を合計した額をもとに算出されます。(※2020年9月1日より改正されました。)
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労災保険制度を利用する際の手続きについて
実際に労災保険制度を利用したい場合、どのような手続きを踏んだらよいのでしょうか?
今回は最も身近に起こりうる療養補償給付についての流れを例にとってご紹介します。
STEP1:会社への報告
まずは、業務災害または通勤災害発生の経緯を会社へ報告しましょう。
報告後に治療を受ける場合には会社からも「労災指定病院を受診するように」と話があると思いますが、前述の通り、療養補償給付を受ける際には必ず労災指定病院で受診するようにしましょう。
ただし、労災指定病院以外の医療機関で受診をしても、所定の手続きを踏めば後から給付を受けることも可能です。その際は以下の点に注意してください。
- 労災保険と健康保険は別物です。そのため、労災指定病院以外で受診する場合には、一旦健康保険証を使わずに治療費を支払う必要があります
- 領収書は必ず大切に保管してください
一度治療費を自分で立て替えて、領収書の内容をもとにあとから戻してもらう流れになります。
一時的にとはいえ保険適用前の全額を立て替えることになりますし、手続きの手間も増えてしまいますので、やはり労災指定病院を探してはじめからそこで受診したほうが良いですね。(労災指定病院を受診する際には窓口での支払いもありません。)
なお、労災指定病院は、厚生労働省のホームページから検索することができます。
STEP2:労災保険給付請求書の提出
報告後は、労働基準監督署長へ労災保険給付請求書の提出が必要となります。
労災保険給付請求書は労働者が直接提出することも可能ですが、会社を通じて手続きしてもらうことが一般的です。その際は、会社への報告の際に詳細を漏れなく伝えるようにしましょう。
労災指定病院で受診し療養補償給付を受ける場合は、最終的にはその病院から労働基準監督署へ請求書を提出することになりますので、会社から、直接医療機関へ請求書を提出するようにと言われることもあります。
STEP3:労働基準監督署長による調査と認定
労災保険給付請求書の提出後は、労働基準監督署長による調査が入ります。
療養補償給付の場合には因果関係がはっきりしている場合が多いので、まず問題なく通るでしょう。
万が一認定されなかった場合には、不服申し立てもできますが、時間も労力もかかってしまいますので、はじめから労災指定病院で受診するか、認定のための判断材料をわかりやすく報告することが大切です。
各給付によって若干申請の内容は異なりますが、基本的な流れは「報告→書類提出→審査(調査と認定)」の3ステップとなりますので、覚えておきましょう。
まとめ
- 労災保険制度は、アルバイト・パートなども含めたすべての労働者が対象
- フリーランスなどの個人事業主のための特別加入制度もある
- 通勤経路通りであれば、通勤時の災害によるものでも適用可
- 業務災害による怪我や病気をした場合は、労災指定病院で受診しよう
労災保険制度のことが頭のどこかにあれば、仕事中にケガをしたときに通常と同じようにうっかり健康保険で受診してしまい損をするということも防げますので、ぜひこの記事の内容を覚えておいてください。
また、障害を負ってしまった場合や死亡してしまった場合には、労災保険だけでは補えないこともあります。
弊社あしたばでは、いざというときへの備えに関するご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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