日本は「キャッシュレス後進国」と言われています。
民間の消費に占めるキャッシュレス決済の割合は2015年時点で18.4%となっており、諸外国が40~60%であるのと比較すると、キャッシュレス普及率がかなり低い状況です。
そうした中、日本政府は「2025年までに世界標準の40%程度までに引き上げる」という目標を打ち出しました。
キャッシュレス化を推進することで、一般生活者にとっての利便性が向上するだけでなく、経済にも良い影響が期待できます。
しかし、キャッシュレス決済の普及には様々な問題・課題もあります。
直接的にも・間接的にも、みなさんの将来に影響するお話しですので、ぜひ全体像を掴んでおきましょう。
(1)なぜキャッシュレス化を推進するのか
ご存知のとおり、日本は少子高齢化と人口減少が進んでおり、それに伴う労働人口の減少・人手不足が続いていくと予想されるため、「生産性向上」が緊急課題になっています。
キャッシュレス決済が普及すると飲食店やスーパー、コンビニなど実店舗での省力化につながり、生産性が向上します。
この、「生産性を向上させたいから」が1つ目の理由です。
2つ目の理由としては、現金決済比率が多く預貯金で資産を持ちたがる「日本人の現金志向を変えたい」というのもあります。
現金だと現実店舗で支払うしかないため商品等を購入するのに制約がありますが、キャッシュレス決済を使いこなす人が増えればネットショッピング等の消費活性化が期待できます。
そして、偽造紙幣等による被害を防いだり、不透明な現金資産の見える化がされて脱税等の抑止にもなります。
最後に3つ目の理由ですが、「企業の収益力を向上させたい」「消費を喚起したい」があります。
これらは1つ目・2つ目の理由と重複する部分もありますが、キャッシュレス決済によって企業側のメリットはたくさんあります。
現金取扱業務の効率化で人件費削減・回転率アップにつながりますし、決済データを「ビックデータ分析」することにより、
消費者の購買行動を予測して顧客層にあわせた最適な商品提供・広告掲載・在庫管理などができ、売上アップとコスト削減、すなわち収益力の向上に大きく寄与します。
そうやって企業が一般生活者の消費を喚起して収益力を向上させれば、経済に好影響をもたらします。
日本はカード決済の普及率が1%増えるとGDPが0.04%成長するという海外の研究結果もあるほどで、それだけ経済効果を生む期待もされているのです。
(2)キャッシュレス化の問題点・課題点
一番の問題点としてあがるのは、「中小店舗にとってメリットが少ない」ことです。
キャッシュレス決済を導入するには「決済サービス自体の導入費用」や「決済端末(カードを差し込む機会などですね)の導入費用」「都度の決済手数料」がかかります。
大手飲食店・スーパー・コンビニ等では規模が大きい分、1回の商品販売に対するこうしたコストはかなり薄まります。
しかし、例えば地元の商店街にある個人経営の八百屋さんやケーキ屋さんをだとどうでしょう?
1日の売上・来店数は、全国に何百・何千とある大手とは全く比べ物になりません。
1回の商品販売に対するキャッシュレス決済のコストは、大きな負担としてのしかかることになります。
また、大手なら前述のビックデータに活用できる大きなメリットもありますが、個人経営のお店ではそれに活用できるケースは極めて稀と思われます。
よって、どうしても中小店舗ではキャッシュレス推進が進みにくいのです。
しかし、そこは対策も講じられています。
今年10月予定の消費増税に合わせ、政府は「キャッシュレス・消費者還元事業」という、「中小・小規模事業者」によるキャッシュレス決済に対する還元策を実施することにしました。
中小店舗でキャッシュレス決済をすると個別店舗で5%、フランチャイズチェーン等では2%が消費者に還元されます。
そのため、中小店舗で買おう!というインセンティブが働き、中小店舗としてもキャッシュレス決済を導入した方が売上アップを見込めます。
加えて、決済端末等の導入コストと決済手数料に対する補助金も予定されています。
また、政府の対策だけでなく、キャッシュレス決済サービスの事業者の一部でも「導入コストゼロ」のような施策を打って導入へのハードルを下げる動きも見られます。
政府の還元策は期限付きのためどれだけの影響が出るかは未知数ですし、中小店舗の普及はスローとなる可能性はありますが、普及方針であることは間違いないので、見守っていきたいですね。
他にも問題点・課題点はあります。
例えば、カードやスマホを使った決済をするための「ITリテラシー」「ITスキル」の問題もあります。
例えば一定の年齢以上の方など、やや難しい面もあるでしょう。
とにもかくにも、最終的には「日本人の現金志向」が大きな壁として立ちはだかると思われます。
以前の記事で取り上げた「行動経済学」からも、人は“現状維持バイアス”がかかります。
ようは、「今まで現金決済で特に困らなかったら、わざわざ変えなくていいや」という心理になりやすいのです。
こうした問題・課題を乗り越えるべく、様々な工夫が求められます。
(3)キャッシュレス化の波に乗ろう
以上、キャッシュレス化推進の背景と問題点をお伝えしましたが、何れにしても、今後キャッシュレス化は進んでいきます。
FPとしてはっきり申し上げると、間違いなく「キャッシュレス化の波に乗った方が良い」です!
確かに最初は一手間かかったりもしますが、非常に生活の利便性が向上しますし、一個人の「資産形成」「資産運用」にも大きな効果があります。
既にキャッシュレス決済を十分に活用してる方もいらしゃるとは思いますが、僕なりに「活用するうえでのポイント」をまとめましたので、確認しておいてください。
キャッシュレス決済手段の比較
・電子マネー
楽天Edy 、WAON、交通系ICカード(Suica や PASUMO)など
特に交通系ICカードは日本で認知度が高く、普及率が高い。
前払い(事前チャージ)。リーダーにかざす。
一部、キャッシュバック等のメリットあり。
・デビットカード
銀行預金口座と紐づけれらた決済カード。日本では普及率が低い。
即時決済。カードを渡して処理してもらう。サインや暗証番号が必要。
一部、ポイント付与等のメリットあり。
・クレジットカード
日本では極めて認知度が高く、普及率が高い。
後払い。カードを渡して処理してもらう。サインや暗証番号が必要。
ポイント付与や旅行保険の付帯、空港ラウンジの無料利用など、各社様々な優待を用意。キャンペーンも多数。
・モバイルウォレット(モバイル決済)
PayPay 、LINE Pay 、楽天Pay、AmazonPay、セブンペイ などのQRコード決済 および おサイフケータイなどの NFC
即時決済。基本的にはスマホ画面をかざすだけで決済可能。
ポイント付与・キャッシュバック等のメリットあり。キャンペーンも多数。
キャッシュレス決済のメリット
まず単純に生活の利便性が向上することです。
「現金を財布から出して、お釣りをもらう」という商品購入時の流れに比べると、消費者の手間も販売者側の手間もカットされるので、非常にスムーズです。(決済方法にもよりますが)
自分のその瞬間だけでなく、周りの人もスムーズに会計を済ませてくれれば、レジに並ぶ時間なども含めて大幅に生活の利便性が向上しますね。
なので、キャッシュレス化で「省力化」されることにより、自分も他の消費者も販売者側もメリットがあるのです。
次に、「ポイント付与・キャッシュバック」のメリット。これが最大のメリットでしょう!
前述のPayPayのキャッシュバックキャンペーンでは、なんと20%の還元がされていました。
(その後LINE Payなども追随して同率のキャッシュバックキャンペーンが乱立し、物凄いことになっていましたね…)
これは流石に大きすぎですが、いまでもPayPayやLINE Payなどのモバイル決済では、常時3~5%の還元をゲットすることができます。
今後も永久に続くとは限らないとはいえ、上記のモバイル決済のキャッシュバックや、クレジットカードの0.5~2%程度のポイント付与は継続されていく可能性が高いでしょう。
個人的にクレジットカードのポイント付与はそのまま現金代わりに利用できるとは限らないため、運用という視点だとどうかなとも思いますが、
モバイル決済のキャッシュバックは非常に大きな運用効果であると考えます。
購入に対して3~5%の現金に相当する残高付与ですからね。
<例>
毎月5万円の食費・日用品購入をモバイル決済するとして、3%の還元率なら毎月1,500円のキャッシュバック。年間18,000円の利益を得ていることになります。
年間18,000円の利益を得る運用、これは預貯金では「ほぼ無理」です。
ちなみに、年利0.01%の定期預金で500万円を運用した場合、18,000円の利息をもらうために約36年かかりますからね。。。(税引前)
そう考えると、「キャッシュレス決済は、十分に効果的な資産運用の手段になり得る」といえるのではないでしょうか。
(もちろん、株式のような成長力のある資産に投資するのとは性質も期待できる運用効果も違いますが)
キャッシュレス決済のメリットは各サービス提供事業者によって様々な制度・キャンペーンがありますし、2つの決済方法を活用してダブルでメリットを得るやり方などもあるようです。
いろいろな情報がWEB上で出ていますので、一度ご覧になってみてください。
キャッシュレス決済の注意点
いくつかありますが、一番の注意点は「使いすぎるリスク」でしょう。
手持ちの現金であればあった分しか使うことができませんが、キャッシュレスは違います。
「つい気軽に買ってしまう」と財布の紐がゆるみやすくなる人もいるかもしれません。
特に気を付けないといけないのは、クレジットカードのような後払い方式。
デビットカードや多くのモバイル決済は即時決済なのと、電子マネーも前払いなので、「持っている資金より使ってしまう」ところまではいきません。
でも、後払い方式の場合は「キャッシング」「リボ払い」の仕組みなど、持っている資金以上の買い物もできてしまいます。
毎月の利用限度額など、それをできるだけ防ぐ仕組みもありますが、「使いすぎるリスク」をふまえて一定のルールを決めて利用する必要がありますね。
他にも盗難リスクや個人情報リスクもありますが、どんなサービスにもあることですし、現金にも盗難リスクがある(むしろクレカのような補償がないためリスク大)ので、ここでは割愛します。
以上、いろいろと書きましたが、いずれにしても日本はキャッシュレス化へ確実に進んでいくことになります。
一般生活者サイドからみて、この超低金利の時代に、預貯金以外で少しでもリターンを生み出す仕組みを活用することは極めて重要です。
「確実なリターン」を生む、キャッシュレス決済のメリット。取り逃がしたらもったいないですよ。
また、社会全体からみても、
生産性が上がり、消費が喚起され、企業が収益向上すれば、日本経済の活性化・持続的成長につながります。
そうした視点で見るように心がけていると、私たちの日々の消費行動が社会にどのような影響を与えるのか、世の中を俯瞰してみることができますね。
一人ひとりがキャッシュレス化に取り組むことで、日本全体が豊かになることにつながると僕は思います。
ぜひ、キャッシュレス決済を積極的に生活に取り入れてみてください。