FPとして

金融所得の課税強化、見送りは正解か?

こんにちは! FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー・安藤宏和です。

みなさんご存知の通り、2021年の自民党総裁選で岸田文雄氏が勝利し、10月4日に岸田新内閣が発足しました。

岸田首相は総裁選の政策パンフレットで「1億円の壁の打破」を掲げ、就任初日の記者会見でも「金融所得課税の見直しは選択肢の一つ」と名言。

株式や投資新信等の売却益など「金融所得」に対する課税を強化する方針でした。

※「1億円の壁」とは、給与所得などは所得が上がると税率も上がるが、金融所得も含めて考えるとおおむね所得1億円を境に、所得税の負担率が低くなっていく現象のことを言います。

ところが、就任7日目の10月10日に早くもトーンダウン。

「当面は触るということは考えていない」とテレビ番組で説明しました。

この点に関して、僕なりの考えを簡単に述べておこうと思います。

莫大な資産を持つ富裕層への課税は強化すべき

そもそも、今回の金融所得課税の見直しが掲げられたのは、「富裕層への課税を強化し、富を国民全体に分配する」ためです。

日本では、毎日頑張って働いて年収500万円という会社員の人がたくさんいますが、保有資産1億円の富裕層にとっては、年利回り5%で運用すれば金融所得500万円。

保有資産が大きいと、労働収入に匹敵する収入を得られるのは明らかです。

しかし労働収入は収入額に応じて最高税率55%なのに対して、金融所得の税率は金額に関わらず約20%というのが今の税制度。

このような「豊かな人は税負担が低く、更に豊かになっていく」という格差を少しでも是正し、子育て支援等を通じて分配していこう!との趣旨だったわけですね。

これについて、僕は基本的に「賛成」の立場です。

親から引き継いで元々たくさん持っている人がどんどん豊かになり、日々汗水垂らして世の中に価値を提供している労働者は税負担が重くてなかなか豊かになれない。

これでは、日本人の大半を占める「労働収入が家計の柱」である一般家庭を中心に、将来への期待やモチベーションが高まりません。

そんな現状は変えていくべきだ!と思うからです。

金融所得課税の「一律の」強化には反対!

しかし、金融所得課税の税率一律に引き上げることには、断固反対です。

コロナ禍の影響で「将来のための資産作り」と真剣に向き合う人が増え、iDeCoや積立NISAなど活用して「長期・分散・積立投資」を始める人が急激に増加しています。

今までは、投資をせずにとにかく預貯金を増やそうする人が日本人には多かったのですが、ようやく「貯蓄から投資へ」の風が吹き始めているということ。

一般生活者が預貯金ではなく投資にお金を回すようになれば、株式市場等を通じて世の中にお金がまわり、企業の成長と国の経済成長につながります。

そのためにも、これまで国は「貯蓄から投資へ!資産形成へ!」と発破をかけてiDeCoやNISAなどの制度を拡充してきたのです。

そこに、労働収入や保有資産の大小と関係なく、「一律で」約20%から30%に引き上げるような事態となれば、

せっかく「投資を始めてみようかな」と思っていた人にとって、「結局税金でもっていかれるならやめておこう」と水を差されるだけです。

千載一遇ともいえる今の「だれでも投資をするマインド」が浸透していく流れを、絶対に止めてはいけない。

繰り返しますが、一律の金融所得課税強化には断固反対します!!

投資家は株価で態度表明、首相も方針転換へ

投資家は、今回の新政権の方針に対して、明確なNOを突きつけました。

岸田首相が方針を表明した後、株価は6日続落(連日の下落)したのです。

投資家の「投資をしよう」というマインドが削がれるマイナスの政策が打ち出されれば、株や債券を買う人(=投資をする人)が減るわけですから、株価は上がりづらくなります。

その局面で株などを保有していても値上がり益を得られにくくなってしまうので、売る人が続出したということです。

投資家は、時の政治家よりも冷静なのかもしれませんね。

こうした状況を受けて、岸田首相はあっけなく方針転換。当面触れないこととしました。

いち経営者としては、朝令暮改と言われようとも過去の発言等に縛られず、すぐさま方針転換して傷口拡大を防いだことは評価できると思います。

そんなこんなでしたが、前述の通り富裕層の課税強化は必要な課題。

今度の動向を見守っていきたいと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

安藤 宏和

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